2011年7月16日土曜日

笵仲淹

 第一回に登場する、北宋の政治家。『水滸伝』作中では、皇帝仁宗虚清天師を召し出すよう進言する役を演じている。同じく第一回に登場し、仁宗に大赦の御礼を奏上した文彦博らとともに、仁宗期の北宋を代表する政治家である。歴史の教科書に出てくるほど有名な人ではないが、中国史好きなら名前くらいは大抵知っているだろう。恐らくもっとも有名なのは「先憂後楽」の四字熟語。「士は天下の憂いに先んじて憂え、天下の楽しみに後れて楽しむべし」という、笵仲淹の発言から出た言葉である。「士大夫たるもの、常に先を見通していなくてはならない」という意味であって、決して「先に面倒を片付けて、後からゆっくり楽しもう」という意味ではない。士大夫というのは要するに官僚のことで、当時の中国では政治家=官僚だから、政治家の心得を言ったものなのである。
西夏の侵入を防いだり、副宰相などの役職を歴任したエリートでもあり、特徴的な「宋代の士風」を代表するような人物であるが、民衆を気遣って虚清天師による祈祷を奏上するという、名臣ならではの役目を与えられている。実際の笵仲淹はこのあと政敵によって左遷され、そこで病没してしまう。そして、彼や文彦博欧陽修などの当代の名臣たちが登用した、有能かつ清廉潔白の士である司馬光王安石によって新法・旧法論争が巻き起こり、やがてはそれが党争へと発展して宋王朝は混乱していくのである。

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